失語症の評価とリハビリテーション

失語症

失語症の評価と診断、リハビリテーションについて説明していきます。

失語症の評価

失語症の評価には『診断』と『訓練のための評価』の2つの目的があります。

診断

失語症か否かの鑑別診断(運動性構音障害や高度脳機能障害などの合併症の鑑別)、重症度の判定、失語症であればタイプ分類の診断。

訓練のための評価

言語症状及びそれぞれの側面の症状の把握(話す、聴く、書く、読む、構文、談話など)、非言語能力も含めた日常場面でのコミュニケーション能力の障害程度と障害特徴の把握。

これらの評価に基づいて予後を推定し、訓練目標や治療計画を立案していきます。また、リハビリの進み具合を確認することで失語症者本人のモチベーションを上昇させ、より質の高いリハビリを行うことができるようになると考えられています。そのため、評価は定期的に行い、リハビリの進捗状況の確認・見直し、リハビリ計画の修正をしていきます。

評価の手続き

通常は、インテーク面接・鑑別診断・掘り下げ検査の順に行います。

検査を行う際には、検査の内容とその必要性をしっかり説明していきます。もし、検査を受けることで不利益となる可能性があれば説明していきます。なので、インフォームド・コンセントがとても大切になります。

患者やその家族の主訴、これまでの経過、環境などを聴取し、STが提供するサービスを理解してもらうことも重要です。また、検査後にはコミュニケーション障害のスクリーニングを行い、今後の方針を立てるのに必要な情報も得ていきます。

評価の方法

評価の方法は、総合的失語症検査、掘り下げ検査、ADLに関する検査、関連情報の収集があります。

総合的失語症検査

失語症が疑われる患者に行う失語症を総合的に評価する検査です。
聴理解、発話、読解、書字、計算の言語機能全般をみることができ、検査所見から失語症のタイプや重症度が判定できます。

鑑別診断には、標準化された検査が適しており、標準化された検査とは、『検査手順と採点法が明確に規定されていること』、『信頼性と妥当性を併せ持つこと』が示されています。

国内で用いる標準化された総合的失語症検査には、標準失語症検査(SLTA)、WAB失語症検査日本版、失語症鑑別診断検査の3つがあります。

掘り下げ検査

掘り下げ検査とは、総合的な失語症検査を実施し、言語機能全般について把握した後に行う検査です。この検査では、特定の側面についてより詳細な情報を得ることを目的とします。また、言語障害の特徴をさらに明確化し、訓練のベースラインを導き出すことにも使用されます。

掘り下げ検査は、鑑別診断で用いた失語症検査の下位検査の結果をもとに、どの側面の掘り下げを行うのか決めていきます。市販されている検査を使用する場合もありますが、STが患者の症状に合わせて作成する場合もあります。

ADLに関する検査

ADL(activities of daily living)とは、日常生活動作のことです。総合的な失語症検査では、言語機能全般の評価を行いますが、日常生活で行われるコミュニケーションとは、言語的手段だけでなく、文脈の情報、その場の状況判断、身振り手振りなどあらゆるものを利用しています。なので、失語症の検査とは別にコミュニケーション能力検査を行い、実用的なコミュニケーション能力の評価や言語機能との間の乖離性などを判定します。

関連情報の収集

医学的情報として、主訴や既往歴、現病歴等、さらにPT・OT、Ns等のリハビリチームと情報を共有し、ADLや訓練意欲・学習能力、訓練でのコミュニケーション状況などの情報を得ることで、失語症の予後の評価や訓練計画立案の参考にします。

心理・社会的側面として、臨床心理士から人格や心理状態など、ソーシャルワーカーから家族関係や職場の状況や復帰の意欲などの情報を得ることで、職場復帰に向けた長期的な目標を視野に入れることができます。

リハビリテーション時期

失語症のリハビリテーションは発症からの時期によって3つに分けられます。

  • 発症直後の急性期
  • 全身状態が落ち着き、本格的なリハビリテーションを行う回復期
  • 自宅や入所施設など生活場面における行動範囲の拡大や言語機能の維持を中心とする慢性期

失語症の治療は一般的には難しく、完全に戻ることはほぼないといわれています。これは、一度ダメージを負ってしまった脳の神経細胞は二度と回復することはないと考えられているからです。

しかし、人間の脳とは、一部の機能を失ってしまっても脳のほかの部位がその機能を代行するという働きを見せることがあります。

そのため、失語症を患ってしまっても、あきらめずに治療を続けることで日常生活を送るのに不自由のない程度まで回復している方もいます。

言語能力を回復させるためのリハビリは根気が必要で、家族や友人など周囲の理解と手助けが重要となってきます。

発症からの時期によって、リハビリテーションの重点や考え方が異なってきますので、しっかりと理解し、前向きにリハビリテーションに取り組めるよう家族と言語聴覚士が協力してサポートしていく必要があります。

急性期

発症直後は、身体状態の不安定さ、意識障害、知的精神活動の低下などさまざまな問題が現れてきます。また、状態が変動しやすく、症状が消失することもあれば逆に明確になることもあります。なので、経過を見ながら症状の把握、リハビリテーションを開始します。

この時期の訓練は、障害の性質や程度を把握し、残っている身体機能によるコミュニケーション手段の確保を行います。

回復期

全身状態が安定し、自己の状態が自覚できるようになる回復期は、機能回復訓練を集中的に行います。本格的なリハビリテーションが開始するため、急性期病院からリハビリテーション病院に転院する場合も多いです。

この時期は、詳細な評価が可能となるため、各言語機能ごとの訓練を行います。

慢性期

言語機能の改善が緩徐になり障害が残存する場合には、実際の生活場面において回復した言語機能を最大に生かし、機能レベルを維持するように、コミュニケーション能力に対する訓練や患者の活動範囲拡大の働きかけを行います。

この時期は、ことばに代わる代償手段の獲得を目指し、ジェスチャーや描画、コミュニケーションノートの使用の訓練や代償手段を有効に活用できるような訓練を行います。
また、生活の質を高めるために、趣味や地域活動、失語症友の会への参加を促したり、地域の失語症パートナーの活用を薦めたりします。職場復帰した方には、その時点でリハビリテーションを終了とはせず、問題がないことが確認できるまで経過を見守っていきます。

リハビリのモチベーション

失語症患者のリハビリには年単位の期間が必要になります。
具体的な目標は「他者とのコミュニケーション能力の回復」とはっきりしていますが、失語症の他に麻痺や半側空間無視などの後遺症がある場合は、それぞれに対してもリハビリが必要になります。

そのため、医師、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、医療ソーシャルワーカーなどでチームを組んでの医療を提供していきます。

しかし、長い期間、たくさんのリハビリを行っていくため、リハビリのモチベーションを保てなかったり、リハビリがストレスに感じてしまったりする時期もあります。

モチベーションを保たせるためには、毎日のリハビリ日記をつけて、進歩の過程を実感することが推奨されています。また、ストレス緩和として、リハビリと並行してカウンセリングを行うことも増えてきています。

高いモチベーションで取り組むリハビリはとても効果的です。ですが、ストレスを感じてしまったり、家族がリハビリを負担と思ってしまったときには、ちょっとの期間、リハビリを休んでみるのも悪くないという考えもあります。

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