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聴覚障害

聴性脳幹インプラントとは

投稿日:

脳に近い中枢に障害のある難聴の場合は、手術による治療は困難なうえ、人工内耳の適用にもならない経緯がありました。しかし、1979年にアメリカの脳神経外科医W.Hitselbergerによって、脳幹の蝸牛神経核を直接電気刺激して聴覚を取り戻す人工臓器「聴性脳幹インプラント(Auditory Brainstem Implant:ABI)」が開発されました。今回は、この聴性脳幹インプラント(ABI)について説明します。

聴性脳幹インプラント(ABI)とは

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画像引用:虎の門病院 耳鼻咽喉科聴覚センター

聴性脳幹インプラントは、聴神経よりもさらに中枢にある脳幹の聴覚路を直接に電気刺激して聴覚を取り戻すもので、人工内耳で効果のない障害に対応できる人工臓器です。

高度の内耳性難聴については、1994年から人工内耳が保険適応となり、日本でも多くの方が手術を受けており、聴覚を取り戻す手段として確立しています。しかし、より中枢に障害のある聴神経由来の難聴については、人工内耳の効果がなく、これまで外科的治療は困難でした。このような聴神経由来の後迷路性難聴の外科的治療法として、脳幹の蝸牛神経核を直接に電気刺激して聴覚を取り戻す聴性脳幹インプラント(ABI)が開発されました。

仕組みと機能

体の外部で音声を拾うスピーチプロセッサと体の内部に埋め込む電極により構成されます。

スピーチプロセッサに取り付けられたマイクロフォンで音声を拾い、音声のフォルマント情報を抽出して電気信号に変換します。その電気信号を電磁誘導で頭皮下に埋め込まれたreceiver-stimulatorに伝えられます。ここで電流パルスに変換され、蝸牛神経核上に置かれた電極を通じ、神経細胞が電気刺激されます。

蝸牛神経核の上に置かれる電極は3×8mmの大きさの板状電極です。これを手術により埋め込みます。電極は周波数の高さによって配列しており、キーボードを弾くように複数の電極が刺激され、音声として聞こえるのです。

脳幹の深いところには聴神経の神経細胞の集合である蝸牛神経核があります。通常、聴神経が障害されていても蝸牛神経核は活動しているため、ABIが有効となります。

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画像引用:虎の門病院 耳鼻咽喉科聴覚センター

効果

手術が成功すれば、すくなくとも読話(口の動きから内容を理解する技術:speech reading)を併用して日常の会話が可能となります。成績を決定する要因には、失聴期間が短いこと、脳の聴神経細胞が多く残っていること、そしてその方の言葉に対する勘の良さなど、多くのことが関係しており、完全に術後の成績を予測することはできません。

また、ABIを使っても失聴前と同じように自然な音として聞こえるわけではなく、人工的な音として聞こえます。正常な聴神経は33000本ありますが、ABIはわずかに12~22チャンネルなのがその理由です。

文献には、聴力は術前には130dBスケールアウトであったが、ABI装用時には閾値が38.3dB まで回復し、読話併用で日常会話は可能となったとの症例がありました。

手術の適応基準

  1. 神経線維腫症第2型(両側聴神経腫瘍)あるいは両側の内耳の骨化、無形成あるいは外傷 等による両側聴神経の切断があり、人工内耳の手術ができない場合
  2. インプラントは左右いずれかの腫瘍切除時に実施する
  3. 他に重篤な合併症がなく心理学的にも適合していること
  4. 原則として、ガンマ・ナイフ治療(放射線治療)を受けていないこと

特に4の項目は、これによって脳が癒着するためにABIの手術が難しくなる、脳幹の蝸牛神経核の細胞数も減りABIの成績が低下する可能性があるため、と言われています。しかし、全例で適応されないわけではありませんので、主治医にご相談ください。

副作用および他の機器との相互作用

手術後の初回刺激時に、めまいや皮膚知覚の異常感覚を生じることがありますが、通常、使用電極の選択と組み合わせ(マッピング)により解決します。

聴性脳幹インプラントは精密な電子機器であり、電磁波、磁気などの影響を受けるこがあります。特に病院、歯科医院、治療院などで各種の電磁波、電気、磁気照射、電気治療などの治療にかかる場合はその安全性を確認してください。

もし、聴神経が残っており、完全にその機能が失われていない場合には、むしろ成績の良い人工内耳埋め込み術をお勧めします。最近、聴神経による高度の難聴でも、人工内耳が有効な例があることが分かってきたからです。この場合、聴神経の電気刺激検査で音として聞こえれば、人工内耳を使える可能性があると言えます。これは外来で行える安全な検査です。

治療について

電極埋め込み手術

通常、腫瘍の摘出手術時に、電極を埋め込みます。聴神経腫瘍を摘出後、脳幹の表面にあるルシュカ孔を確認し、ここから3×8mm大のインプラント電極を脳幹の蝸牛神経核に設置します。

この電極にはダクロンという特殊な線維膜が付いており、この周囲に結合織という膜が自然に形成され、移動しにくくなります。電極から出たコードは頭皮下に固定されたレシーバスティミュレータに連結します。周囲は脂肪組織で充填されます。頭皮は完全に縫合され、電極が見えることはありません。術後、洗髪も水泳も可能になります。

電極の位置の確認方法

手術中に電気刺激を行い、聴覚によって誘発される脳波を確認することで、適切な位置を決定します。したがって、麻酔中であっても最適な電極の位置を知ることができます。

電極のプログラミング方法

手術後6週間経過し、傷が完全に治ってから、初めて電極に電気を流します。それまでは音は聞こえません。使用可能な各電極に周波数を8000Hzまで割り振ります。この時に、めまいや身体の知覚の変化が現れる可能性がありますが、それらの電極は蝸牛神経核と近い別な神経路を刺激しているものと考えられますので使用しません。したがって電極がすべて使用可能となるとは限りません。各電極に心地よいと感じた電流量だけを流し、不快な音刺激を避けることができます。このプログラムはホストコンピュータから携帯用のスピーチプロセッサに移され、これを携帯します。耳かけ型マイクロフォンで拾われた音がこのスピーチプロセッサで電気信号に変えられて電磁波で頭皮下のIC回路に伝達され、脳幹電極から脳に伝えられます。体内に電池は不要です。

リハビリテーション

このスイッチオン(初めて通電することをこう呼びます)後も定期的に通院し、プログラムを確認し、大きく異なった場合には再度作りなおします。同時に、ことばのリハビリテーションも行ってゆきます。プログラムは患者さんが持つ、携帯用スピーチプロセッサに保存されます。これは何度でも書きかえることができます。

治療にかかる費用

聴性脳幹インプラント装置は主治医が個人輸入申請書を厚生省に提出し、許可された場合にのみ個人輸入されます。聴性脳幹インプラント装置は一式270万円の金額がかかりますが、これは自己負担となります。その他に、入院、手術料も個人負担となります。

注意事項

聴性脳幹インプラントは、電極による音刺激とともに読話による視覚的情報も併用してことばの聞き取りを可能にするものです。手術前そして手術後の入院中にも読話の訓練を行う必要があります。

聴性脳幹インプラントに過大な期待を持ち、実際に音が入ってきてからのギャップに悩む時期があるかもしれません。これらの問題に前向きに取り組み、悩みを解決するには本人の「音を聞きたい」という強い気持ちと、聴性脳幹インプラントを自分の耳として受け入れる意欲が大事です。

埋め込んだ電極の具合と感染などを起こしていないかを数カ月毎に定期的にチェックします。プログラムも変化しますので、測定を行い、前と極端に変わっていればプログラムをより良く書き換えます。

したがって、以下の項目の心構えが必要になります。

  • 手術すればすぐに聞き取りができるわけではありません。リハビリが必要です。
  • 家族とまわりの方々の協力が必要です。
  • 読話の訓練が必要な方もいます。
  • 聞こえなくなる前の自然な音とは違います。
  • 手術後も定期的なチェックのために病院に来る必要があります。

参考

この記事の投稿者

宮崎 関大
宮崎 関大
言語聴覚士。専門は成人聴覚障害。補聴器やコミュニケーション方法についてメインで執筆していく予定。

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