中耳の疾患(中耳炎、鼓膜穿孔など)

聴覚障害

中耳は鼓膜(こまく)、耳小骨(じしょうこつ)、耳管(じかん)から作られる器官です。
中耳の代表的な疾患を説明します。

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鼓膜穿孔

外傷により鼓膜が穿孔(やぶれた)した状態です。外傷には直達外力と介達外力の2種類があります。

原因

直達外力とは、鼓膜を物理的に外力で穿孔してしまったことで、原因としては耳かきによる事故が最も多いです。耳かき中に子どもとぶつかった、転んでしまった、耳かきしたまま寝てしまい寝返りを打った等、事故は様々ですが、耳かきをする場合は注意が必要です。

介達外力とは、鼓膜に物理的な外力が及んでいないが穿孔してしまったことで、原因としては、潜水や飛行機の離着陸などの大きな気圧の変化、平手打ちによる耳の殴打が多くあります。潜水や飛行機の離着陸では、耳抜きやつばを飲み込むなどの対処法で中耳腔内の気圧の変化を調整し、鼓膜に圧力がかかることを防ぎます。

症状

主な症状は、耳痛、伝音性難聴、耳閉感です。穿孔後、感染を起こすと耳漏が見られます。
治療は、外耳道内の清掃と衛生指導です。鼓膜穿孔は自然治癒することが多く、経過観察だけの場合もあります。

急性中耳炎

細菌感染による中耳の急性炎症です。

原因

上気道感染(かぜ症状)に引き続いてあるいは伴って発症します。

細菌やウイルスの感染経路となるのが、鼻の奥にある上咽頭と中耳の間にある耳管です。鼻や喉の炎症病巣の細菌やウイルスが上咽頭から耳管を通って中耳に至ります。そして、急性中耳炎を生じさせます。

上気道感染の多い冬の時期に発症することが多く、特に生後6カ月から6歳の児童がかかりやすく、親の注意が必要です。

感染以外の急性中耳炎として、飛行機の離着陸時に気圧の変化に中耳腔が対応できないために起こる中耳の圧外傷(航空性中耳炎)もあります。

症状

主な症状は、かぜ症状が治まった後の拍動性の耳痛、難聴、発熱です。耳痛は歯や喉などの耳周辺へと放散する疼痛としても自覚します。

中耳炎の初期には、粘膜のむくみと充血が起こり、鼓膜が赤くなります。中耳炎が進行すると、鼓膜の後ろに膿がたまります。膿の量が多くなると鼓膜が腫れあがり、圧力の増加から鼓膜に穴が開きます。その穴から膿が外耳道に流れ出し、耳漏となります。

乳幼児では耳痛を訴えることが難しいため、機嫌が悪い、耳に手を当てる、発熱などの症状がみられたら急性中耳炎を疑うことが必要です。抱っこをすると耳の充血が退くため、痛みが和らいで泣き止むことが多いのも、この症状の特徴です。

難聴は伝音難聴ですが、ときに炎症が内耳まで進展し、混合性難聴をきたす場合もあります。

治療

治療は、耳漏の吸引・除去、抗生物質の投与になります。疼痛が強いときには鎮痛剤を投与します。全身状態が良好であれば、入浴は控えることはありませんが、外耳道内に水が入らないように注意します。また、自宅安静は必要ありませんが、運動は控えます。

圧外傷による中耳炎では、症状は自然に軽快するため抗生物質の投与は不要です。飛行機の離着陸時に症状が頻発する場合は、飛行機利用前に、あらかじめ耳管機能が良好に働く点鼻剤を利用するようにします。

滲出性中耳炎

鼓膜に穿孔がなく、中耳に貯留液(滲出液)があるが耳痛や発熱といった急性感染症状のない中耳炎をさします。

原因

滲出性中耳炎の原因は多彩で、耳管機能不全、中耳粘膜の変化、中耳腔内の細胞・炎症細胞などが関与しています。中耳が細菌により炎症を起こすと、中耳腔の内部から炎症性の水が滲み出てきます。これが貯留液(滲出液)といわれるものです。通常は耳管の働きにより、貯留液は排出されますが、耳管の機能が悪いと中耳腔内に貯留液がたまっていき、滲出性中耳炎となります。

耳管機能不全が起こる経緯としては、急性副鼻腔炎、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)、急性咽喉頭炎、かぜ症状、アレルギー性鼻炎、アデノイド肥大、上咽頭腫瘍、口蓋裂など多くの原因があります。また、頻回な鼻すすりでも滲出性中耳炎が発症する場合もあります。

滲出性中耳炎の発症年齢のピークは2回あり、ひとつは4歳~8歳の児童、もうひとつは高齢者です。児童の場合、急性中耳炎に引き続いて発症することが多く、急性中耳炎を発症した子どもの3分の1は滲出性中耳炎に移行するといわれています。

症状

主な症状は、耳閉感、難聴、耳鳴り、自声強調です。しかし、小児では自覚症状がない場合も少なくありません。子どもから訴えはないが、テレビの音を大きくする、呼んでも返事しない、保育園や幼稚園の先生が反応がおかしいと言った、などといったことで発見されます。したがって、小児では日常の行動からおかしな点(反応が遅いなど)を周囲が気づくことが大事です。

治療

治療には、保存的治療と手術的治療の2つがあります。

保存的治療は、抗生物質や消炎剤などの投与、耳管通気、原因となっている鼻咽頭疾患の治療です。急性中耳炎やかぜ症状に続く滲出性中耳炎の多くは投薬のみで治癒していきます。

自然に治る率も高く、3分の2は3か月以内に治癒します。しかし、再発する例も多い疾患ですので、保存的治療を行いながら3か月間は経過観察が必要です。

保存的治療でも改善しないもの、日常生活に支障を生じる程度以上の難聴(30dB以上)があるものでは、手術的治療を行います。手術的治療には、鼓膜切開、鼓膜チューブ留置、アデノイド切除術があります。

鼓膜切開を行うと、中耳内が喚起されて耳管と鼓室の病態が改善され、耳管からの貯留液排出が容易になります。しかし、鼓膜は数日すると再び塞がるため、何度も鼓膜切開をする場合は鼓膜にチューブを設置します。これが鼓膜チューブ留置術です。

慢性中耳炎

中耳の感染が持続し、中耳の各組織に慢性炎症性変化が生じた状態をさします。通常は急性中耳炎の反復により生じ、永久的な鼓膜穿孔、反復性の耳漏が見られます。

症状

主な症状は、耳漏、伝音難聴、急性増悪時の耳痛です。ときには耳鳴りや耳閉塞(耳が詰まった感じ)を訴える場合もあります。

多くは幼少期の急性中耳炎により生じた鼓膜穿孔が、炎症の長期化や反復により永久的な穿孔となって慢性中耳炎に移行します。穿孔の大きさはさまざまで、残存鼓膜も正常に近い薄い透明感のあるものから、肥厚、混濁、石灰化したものまで種々みられます。

耳漏は粘着性で、鼓膜穿孔を通して外耳道に慢性的に、あるいは反復性に流出します。さらに耳漏が刺激となり、鼓膜や外耳道に炎症を起こすこともあります。また、耳漏が血性で悪臭がするときには、真珠腫性中耳炎や中耳悪性腫瘍の可能性も疑います。耳漏は中耳粘膜が細菌感染から生じた膿が流出したもので、風邪症状の後は体の抵抗力が弱まるためか、耳漏が増悪することが多いようです。検出される細菌は、黄色ブドウ球菌が多いですが、緑膿菌や真菌(カビ)もみられます。

難聴は伝音性で、鼓膜穿孔の大きさ、鼓膜や耳小骨の変化(変形・固着)の程度により変わってきます。炎症が長く続くと、内耳に波及して神経性の感音難聴が加わることもあります。そうなると、難聴の程度は高度難聴となります。

治療

治療は、保存的治療と手術的治療があります。

保存的治療では、耳漏を停止させることが主目的になります。耳漏の除去や生理的食塩水などを用いての外耳道の洗浄、点耳薬の投与を行います。

手術的治療では、病変の除去、鼓膜穿孔の閉鎖、耳小骨を行っていきます。病変の程度により行う手術が選択されますが、病変が高度で中耳の再建が困難なときなどは中耳の伝音器官を除去するため、中等度の伝音難聴となる場合があります。

真珠腫性中耳炎

慢性中耳炎の範疇に含まれる疾患ですが、慢性中耳炎の中では重篤な病変であるため、ひとつの疾患として説明します。また、真珠腫性中耳炎には生まれつき形づくられる『先天性』と幼児期以降に発症する『後天性』があります。

原因

先天性真珠腫性中耳炎は、鼓膜は正常で中耳に孤立して真珠腫が存在します。胎児期の外胚葉組織が間葉系組織に迷入したり、遺残することによって生じると考えられている中耳内の角化扁平上皮に由来する先天奇形です。真珠腫の存在部位により、『鼓室型』『乳突腔型』『錐体先端部型』に分けれます。

後天性真珠腫性中耳炎は、中耳腔の陰圧と炎症により起こると考えられています。幼少時期に反復する急性中耳炎や滲出性中耳炎の既往をもつ人に多く見られ、一般的に『真珠腫性中耳炎』と呼ばれているものはこの後天性のものになります。

鼓膜の一部がポケット状に陥凹して『真珠腫嚢』となり、さらに奥の上鼓室、乳突腔に侵入することによって『真珠腫』となります。徐々に増大する過程で、ポケット内に表皮剥奪物(耳垢)が蓄積し、そこに感染を伴うようになると、炎症性の刺激物質が産生され、上皮の増殖や分化が亢進します。さらに感染が持続化し、耳小骨や周囲の骨破壊を伴いながら上皮が周囲に拡大進展します。鼓膜の陥凹の部位により、『弛緩部型真珠腫』と『緊張部型真珠腫』に分けられ、弛緩部型真珠腫の方が多く見られます。

症状

主な症状は、慢性中耳炎と同じく、耳漏、伝音難聴、耳痛です。感染のない真珠腫性中耳炎の場合は、耳漏は多くなく、耳漏に気づかない患者もいます。しかし、感染を伴うと悪臭を放ち、ときに血性の耳漏が出現します。

難聴の程度は、正常から高度まで様々です。真珠腫の初期段階では鼓膜の変化のみで聴力は正常範囲に留まります。しかし、真珠腫が進行するするにつれ、難聴の程度は進んでいきます。他の症状がなく、難聴のみ進行することもあり、患者本人に耳症状の自覚がない場合もあります。

さらに、真珠腫の進展拡大に伴い、高率で耳小骨や中耳腔の周辺の骨破壊が生じていきます。骨破壊が難聴が高度に進行する原因になります。また、感染症を合併すると骨破壊が急速に進行し、三半規管の骨や顔面神経骨壁が破壊され、めまいや顔面神経麻痺が引き起こされます。脳との境である上鼓室や乳突腔の天蓋骨が破壊され、感染が長引く場合には髄膜炎や硬膜外膿瘍、脳膿瘍などの頭蓋内合併症をきたす恐れもあります。

治療

治療には保存的治療と手術的治療があります。

保存的治療

保存的治療は、病変の進行がないときに選択されます。定期的な耳内の清掃と経過観察、耳漏があるときには耳内の洗浄、点耳薬の投与、抗生物質の投与になります。

陥凹部分の清掃を反復して行うことで、保存的治療の効果もよくなり、耳漏の停止につながります。ただし、保存的治療はあくまでも一時的な処置であり、真珠腫の永久的な治療を目指すものではありません。

手術的治療

手術的治療は、病変の除去です。真珠腫性中耳炎の多くは手術の適応になります。外耳道などの生理的形態を維持しつつ、伝音機構を再建するのが理想的で、上皮の完全除去と再発を防止します。しかし、真珠腫は常に再発の恐れがあるため、手術後も慎重な経過観察が必要になります。手術の術式については、真珠腫の進展の程度、粘膜の病変の程度、健常側の聴力、患者の生活環境や年齢などを考慮して選択していきます。

合併症

真珠腫性中耳炎の手術は、病変の状態、部位の範囲により合併症が起こる可能性もあります。

鼓膜の裏面には味覚神経の一つである『鼓索神経』が走行しています。真珠腫の状態によっては、この神経を切断しなくてはならない状態もあるため、味覚異常が出現する可能性があります。ただ、味覚神経は他にもあるので数カ月で異常がなくなる方もあれば、自覚症状がほとんどない方もいます。

三半規管の骨壁が破壊されている場合、真珠腫を除去することで一時的に内耳が障害されて一過性のめまいが出現することもあります。また、耳小骨に触れることで内耳に刺激が加わり、めまいを訴える例もありますが、いずれも一過性になります。

耳小骨のすぐそばを顔面神経が走行しています。真珠腫が広範囲に進展している場合は、顔面神経の骨壁が消失し、神経が直接、真珠腫と接している例もあります。真珠腫除去の際にまれに顔面神経麻痺をこともありますが、ほとんどの場合一過性になります。

耳小骨や三半規管付近の処置により、内耳に強い刺激が加わることで耳鳴りや難聴をきこすこともあります。一時的な難聴のものもありますが、回復が難しいものもあります。

耳硬化症

耳小骨の最深部にあり、内耳に音を伝える器官であるアブミ骨が固着し、動きが悪くなる疾患です。

原因

耳硬化症は遺伝的要因があり、家族間で発症することがあります。また、ウイルス(麻疹)が原因であるとも言われています。

症状

主な症状は、両側の進行性難聴と耳鳴りです。耳硬化症は伝音性難聴を呈しますが、病変が進行し、内耳まで到達すると混合性難聴を呈していきます。

発症は30歳代が最も多く、東洋人より白人に生じやすいとされています。また、男女差があり、女性に多く、妊娠、出産により難聴が増悪しやすい特徴があります。

周囲が騒がしいとかえって良く聞こえるというウイリス錯聴という現象が生じることもあります。

治療

治療は、手術により正常な聴力を獲得できる代表的な疾患であるため、基本的には手術を選択します。

中耳奇形

中耳の先天性の形成不全です。耳介や外耳道、あるいは、顎や顔面と合併することが多くあります。

原因

原因としては、遺伝的要因によるものと妊娠中の母親の風疹などの感染によるものがあります。

症状

中耳奇形のみであれば、症状は難聴のみとなります。また、一側のみ奇形のこともあり、反対耳が正常で本人は難聴の自覚がなく、親も気づかず、学校健診などで発見されることがあります。

治療

中耳奇形のみであれば、手術により高率で聴力の改善が期待できます。

耳管狭窄症

耳管の機能障害により、中耳の換気と排泄が障害された病態です。

原因

かぜ症状や副鼻腔炎などの上咽頭・鼻・服鼻腔疾患により、耳管と咽頭をつなぐ入口が炎症を起こすことにより発症します。また、アデノイド肥大や上咽頭腫瘍などにより耳管が圧迫されて発症することもあります。炎症などの場合は、子どもに見られることが多くあります。

さらに、潜在的に耳管機能の働きが悪い場合、山登りや飛行機の離着陸などの気圧の変化で一時的に耳管狭窄症が出現することもあります。

症状

主な症状は、耳閉感、自声強調(自分の声が強く響いて聞こえる)、伝音性難聴、低音性耳鳴りです。

治療

治療は、耳管機能障害の原因となっている疾患の治療と耳管通気です。

耳管開放症

耳管が常に開放されている状態となっている疾患です。

原因

急激な体重の減少による耳管周囲組織の委縮により起こります。

症状

主な症状は、耳管狭窄症と同じく、耳閉感、自声強調です。他には、自分の声が耳の中に抜けて聞こえるといった訴えや、立位では症状があるが、頭を下げれば症状が消えるといった訴えもあります。

治療

治療は、耳管狭窄症と同じく、耳管機能障害の原因となっている疾患の治療と耳管通気です。

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