嚥下障害のリハビリテーション(直接訓練)

嚥下障害のリハビリテーションについて

摂食・嚥下障害に対するリハビリテーションには、嚥下器官へ刺激や運動を加えて間接的に嚥下を改善しようとする間接訓練(機能改善アプローチ)と姿勢や食物形態の調整、摂取方法の統制といった方法で直接的に障害を代償しようとする直接訓練(代償的アプローチ)があります。

それぞれの訓練に様々なテクニックが含まれており、どの訓練テクニックを用いるかは嚥下障害の様相によって異なります。また、1つの症例に対していくつかのテクニックを組み合わせて使用していきます。

直接訓練(代償的アプローチ)

直接訓練とは、実際に食物を用いて行う訓練のことです。食物を用いるために誤嚥の危険を伴います。そのため、直接訓練は原則として、意識清明、安定した全身状態、摂食試行で痰増加・発熱等の誤嚥の兆候が認められない、嚥下造影等で姿勢、嚥下法、食物形態・分量に配慮すれば誤嚥のないことが確認させる患者にのみ行います。

障害の様相に応じて、誤嚥を防ぐための体位や肢位、代償的嚥下法、食形態の工夫などの代償手段を用いることで、誤嚥の防止を図りながら、安全に直接訓練を行い、30分程度の食事時間と7割以上の摂取量を目安に、安全かつ適切な難易度の食事を段階的に進めます。

嚥下法

声門閉鎖嚥下(息止め嚥下)

嚥下時の声門下圧をあげることで、食塊が喉頭侵入することや誤嚥を防ぎます。また、嚥下後に咳を意識的に行うことで誤嚥物の喀出をします。

方法は間接訓練と同様です。嚥下前に吸気を行い、しっかり息をこらえてから嚥下し、嚥下後に咳をします。

複数回嚥下(反復嚥下)

食道入口部開大不全があり、咽頭残留や嚥下後の誤嚥がある場合に、一口につき何度も嚥下することで残留物の解消を図ります。

方法は、一口につき何度も嚥下を行います。口腔内は空であっても2度3度と繰り返し嚥下を行います。空での嚥下が難しい場合は、嚥下後、唾液を飲むように指示していきます。

交互嚥下

粘膜の乾燥等で複数回嚥下が困難な方に行います。液体やゼリーでは誤嚥や残留がなく、固形物で咽頭残留がある場合に有効です。

固形物と液体・ゼリー類を交互に嚥下し、咽頭残留の解消を図ります。

努力嚥下

軟口蓋挙上不全や咽頭収縮不全、喉頭挙上範囲縮小、喉頭蓋閉鎖不全に有効です。

意識的に舌根の後退を強化し、咽頭壁との距離短縮を図ることにより喉頭蓋谷の残留解消を図ります。

代償姿勢

背面支持座位

体幹・頚部を支持すれば残留、誤嚥がなく、前傾姿勢、体幹側屈(麻痺側への傾斜)がある場合に有効です。

体幹の前傾・側屈を避けるため背もたれ・クッション等で背面を支えます。

顎引き嚥下(頷き嚥下)

喉頭挙上の遅延・範囲縮小、声門閉鎖不全がある場合に有効です。(嚥下前・中の誤嚥)

顎を引くことにより、喉頭の挙上・閉鎖を促します。頸部は直立させておきます。

体幹後傾位

気道が上、食道が下という位置関係を利用し、重力を使って食道に食塊を送って誤嚥を防ぎます。舌運動障害による食塊移送不全、喉頭蓋切除、喉頭挙上範囲縮小、咽頭縮小不全に有効です。

食塊移送促進や咽頭残留の誤嚥防止を図ります。頸部は顎引き位となるよう枕等で調整します。

体幹側臥位

複数回嚥下、交互嚥下で解消されない一定量の咽頭残留に有効です。

口腔、咽頭の動きの良い側を下にし、咽頭残留の軽減、気道流入(誤嚥)防止を図ります。

横向き嚥下(頭部回旋)

反回神経麻痺等、一側性咽頭・口頭の運動障害やワレンベルグ症候群等、一側性食道入口部開大不全などで左右差がある場合に、患側の梨状窩を狭め健側に食塊の経路を形成し、梨状窩の残留、誤嚥を防ぎます。

患側に頚部を回旋することにより、相対的に健側梨状陥凹を広くして食塊を健側に導きやすくします。

傾き嚥下(頭部側屈)

舌の一側性麻痺や半側切除、喉頭の一側性挙上障害等で左右差がある場合に、重力を利用して健側に食塊の経路を形成し、梨状窩の残留、誤嚥を防ぎます。

健側に頭部を側屈して、食塊を健側口腔内に通します。顎引き位と組合わせて頬杖をつくような姿勢をとります。

顎上げ嚥下(頭部後屈)

舌切除による食塊移送不全で、喉頭挙上遅延がない場合に有効です。

食塊移送時に顎を上げて代償し、喉頭挙上時は素早く顎を引きます。

顎出し嚥下(顎突出)

喉頭挙上術+輪状咽頭筋切除術後、咽頭喉頭食道摘出空腸再建術後の逆蠕動に有効です。

術後、顎を前方突出すると機械的に食道入口部が開大し、咽頭貯留・逆蠕動の解消が可能となる例があります。

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