失語症は、脳卒中や事故等で脳が傷つくことによって生じる言葉の障害です。症状としては、話すこと、書くこと、読むこと、聞くこと、といった言葉を用いる能力全般が低下します。そのため、失語症の方が社会参加を果たすためには、失語症のことをよく理解し、コミュニケーションを補いながら一緒に会話できるパートナーが必要となります。
失語症者向け意思疎通支援事業は、失語症の方が積極的に社会参加できるよう支援を行う制度です。平成25年4月に施行された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」において、意思疎通の支援を行う者の派遣や養成等を行う制度として「意思疎通支援」が規定されており、失語症の方の意思疎通支援は各自治体で取り組んでいく事業になりました。また、各自治体では、意思疎通支援事業を行うにあたり、失語症の方のパートナーとなる意思疎通支援者の養成を始めています。
意思疎通支援とは
これまでの障害者自立支援法では、「手話通訳等」を行う者の派遣又は養成という表現を用いていました。ですが、意思疎通を支援する対象者は手話や要約筆記を用いる聴覚障害者だけに限りません。盲ろう者への触手話や指点字、視覚障害者への代読や代筆、知的障害や発達障害のある人とのアルテクなどのコミュニケーション、重度の身体障害者に対するコミュニケーションボードによる意思の伝達などもあり、多様に考えられます。そのため、障害者総合支援法では新たに「意思疎通支援」という名称を用いて、概念的に幅広く解釈できるようになり、今回の失語症者向け意思疎通支援事業もこの範囲のひとつです。
失語症者の人数
失語症協議会調査によれば失語症者の人数は平成26年3月31日時点で約20~50万人と推測されています。
意思疎通支援者の養成
失語症者向け意思疎通支援事業がスタートするにあたり、各自治体でまずは支援者の養成の募集が始まりました。
養成カリキュラムは次のとおりです。必修科目と選択科目に分かれており、そのなかに講義と実習があります。養成課程を修了した者は、失語症の方の外出に同行したり、交通機関利用援助をしたり、当事者会(失語症友の会など)でのコミュニケーションの援助などの活動を行います。
必修科目(40時間)
養成目標 | 失語症者の日常生活や支援の在り方を理解し、1対1のコミュニケーションを行うための技術を身につける。さらに、日常生活上の外出に同行し意思疎通を支援するための最低限必要な知識及び技術を習得する。 |
到達目標 | 失語症者との1対1の会話を行えるようになり、買い物・役所での手続き等の日常生活上の外出場面において意思疎通の支援を行えるようになる。 |
- 失語症概論(講2)
- 失語症者の日常生活とニーズ(講1)
- 会話支援者とは何か(講0.5)
- 会話支援者の心構えと倫理(講0.5)
- コミュニケーション支援技法I(講4)
- コミュニケーション支援実習I(実18)
- 外出同行支援(講1)
- 外出同行支援実習(実8)
- 派遣事業と会話支援者の業務(講1)
- 身体介助の方法(実2)・身体介助実習(実2)
選択科目(40時間)
養成目標 | 多様なニーズや場面に応じた意思疎通支援を行うために、応用的な知識とコミュニケーション技術を習得するとともに、併発の多い他の障害に関する知識や移動介助技術を身につける。 |
到達目標 | 電車・バスなどの公共交通機関の利用を伴う外出や、複数の方への支援、個別訪問等の場面を想定し、失語症者の多様なニーズに応え、意思疎通の支援を行えるようになる。 |
- 失語症と合併しやすい障害について(講1)
- 福祉制度概論(講1)
- コミュニケーション方法の選択法(講2)
- コミュニケーション方法の選択法(実10)
- コミュニケーション支援技法II(講4)
- コミュニケーション支援実習II(実22)
実績のある自治体
千葉県の我孫子市、四日市市が「失語症会話パートナー」という名称で支援者を養成していました。この事業ができるにあたっても2市がモデルとなり、全国を引っ張った形になります。
平成30年度から全国の自治体で養成を始めるよう厚生労働省から通達がなされ、いまでは各都道府県が地域の言語聴覚士会などと連携して養成事業を行っております。
まとめ
失語症者向け意思疎通支援事業は始まったばかりであり、どのように支援者を養成していくのか、言語聴覚士はどのように関わっていくのか、まだまだ手さぐりな部分も多いです。ですが、実績のあるモデル市を参考にし、全国の自治体で力を入れていってほしいと思います。
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