軽度認知障害(MCI)

軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)とは、いわゆる健常と認知症の中間地点のグレーゾーンの状態のことです。認知症予備軍といえば分かりやすいかもしれません。認知症は日常生活に援助が必要になりますが、MCIは努力や工夫が必要かもしれませんが日常生活を支障なく過ごすことができます。以下に軽度認知障害の特徴を示します。

MCIの診断基準

MCIの診断基準というのは、まだしっかりと確立されていません。しかし、その中でもおおむね共通する項目として、以下の5つがあります。

  1. 記憶障害の訴えが本人または家族から認められている
  2. 日常生活動作は正常
  3. 全般的認知機能は正常
  4. 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する
  5. 認知症ではない

代表的な症状

複雑な注意力の障害

  • いつもできていた家事や仕事にかかる時間が長くなったり、間違いが多くなったりする。そのため、何度も確認する、といった行動が出てくる。
  • 「ながら」仕事が難しくなり、テレビを見ながら料理をしたり、友人と会話をしながら買い物を続ける、といったことが難しくなる。

実行機能の障害

  • 手の込んだ料理や手順が何段階も必要な仕事をこなすのに努力が必要になる。
  • 同時に2つ以上の家事や仕事をすることが難しくなったり、途中でお客さんの訪問や電話の対応をした後で、それまでにしていた家事や仕事を再開することが難しくなる。
  • 整理整頓が難しくなり人との会話にもついていけないことが増える。

学習と記憶の障害

  • 最近の出来事を思い出すのに苦労するようになり手帳やメモ、カレンダーがないと困るようになる。
  • 最近の出来事を忘れることがあり、みんなで経験した共通の出来事を一人だけ忘れていることがある。
  • 同じことを何度も繰り返して言うことがある。
  • 金の支払いが済んだかどうかといった大事なことを思い出せないことがある。

言語の障害

  • 言葉の名前が出てきにくくなり、「あれ」「それ」ということが増える。
  • 人の名前も出てきにくいため、知っている人と話をするときにも名前を呼ぶことを避ける。
  • 雑談がしにくくなり、話についていけないことがある。

知覚と運動の障害

  • 外出するときに地図を見たり人に聞いたりする必要がでてくる。
  • 車を駐めることが以前より上手ではなくなり、車を擦るような事故を起こすことが増える。
  • 日曜大工、縫い物、編み物のような空間的な作業に、より努力が必要となる。

社会的認知の障害

  • 人の表情を読んだりすることが難しくなり、人の言うことに共感できることが減り、活気が減ったり、落ち着きがなくなったりする。
  • 積極性が低下し、好きな習い事に行くのを嫌がる、理由をつけて休もうとする。

こうした症状が見られ、以前とは少し違ってきているけれども日常生活上では特に支障のない状態がMCIです。

MCIの分類

MCIには、「健忘型MCI」と「非健忘型MCI」の2つの型があります。

健忘型MCI

記憶障害が主な症状のタイプです。
MCIの多くはこのタイプであり、進行するとアルツハイマー病になることが多いとされています。

非健忘型MCI

判断能力が低下したり計画を立てることが難しくなるタイプです。
進行すると、前頭側頭型認知症やレビー小体型認知症になることが多いとされています。

検査

認知機能の検査には、自分でできるセルフチェックと病院で医師が行う検査があります。

長谷川式簡易知能評価スケール(改訂版)

長谷川式簡易知能評価スケール(改訂版)は、認知症の診断に広く利用されている長谷川式のスケールを利用した、認知症簡易診断のセルフチェックです。

30点満点のうち、20点以下だった場合に認知症の可能性が高いといわれます。非認知症の人の平均点は24.3点とされており、認知症の軽度の人の平均点は19.1点とされています。ただし、この診断結果はあくまでも参考程度であり、テストの点数が悪かったからといって認知症と診断されるものではありませんし、MCIでも点数が良いこともあります。

あたまの健康チェック

電話で約10分間のチェックテストを受けるものです。テストは有料ですが、97.3%と高精度の判別が可能だとされています。

ホームページから「あたまの健康チェックカード」を購入し、フリーダイヤルに電話をかけ、オペレーターの指示に従ってテストを受けます。料金は3,500円(税別)で、診断結果は郵送で受け取れます。

医師による診断法

認知機能を測る検査にはいくつかの種類があり、医師によって採用している検査が異なります。
代表的な検査としては、「Mini-Mental State Examination(MMSE)」「ウエクスラー成人用知能検査第三版(WAIS-III)」「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」「アルツハイマーアセスメントスケール日本語版(ADAS-Jcog)」などがあります。

他にもMRIやCTといった画像検査や血液検査等併せて行うこともあります。

認知症予防のリハビリ

MCIから認知症へと症状が進行しないように予防するためには、認知機能を維持するための活動が有効です。つまり、日常的に頭を使うことです。

記憶を鍛える

体験したことを、意識的に思い出してみましょう。例えば、昨日の出来事を日記につけてみたりするとよいです。

注意力を鍛える

複数の物事を同時に行いましょう。例えば、料理をするときに何品かを同時に作るようにしたり、複数人で雑談したり、いくつかの家事や仕事を並行して行ったりするとよいです。

実行機能力を鍛える

段取りを考えて、新しいことに取り組んでみましょう。例えば、旅行の計画を立てたり、効率の良い仕事の段取りを考えたり、買い物に出る前に必要な物や予算、買う場所、買い物を終えて帰ってくるまでの時間などをあらかじめ計画しておくとよいです。頭を使う囲碁や将棋などのゲームや文章を書くことなども効果的です。

食生活を見直す

食生活も認知症予防に大切です。ビタミンC、E、βカロチンなどの抗酸化物質を豊富に含む緑黄色野菜、DHA、EPAなどの不飽和脂肪酸を多く含むお魚、肉の場合はヒレ肉やもも肉、ささみなどの脂肪が少なくタンパク質が多い部位は認知症予防に効果があるとされています。

効果的な運動

体を動かすことも大切です。ウォーキングやサイクリング、ジョギング、エアロバイクなどの有酸素運動を日々の生活に取り入れると良いです。運動をしながら簡単な計算(100から7を引いていく)やしりとりをしたりと、同時に頭を使うと、より効果的です。

早期発見が大事

認知症を早期に発見すること、MCIの段階で発見することには、多くの利点があります。認知症の原因疾患として約半数を占めるアルツハイマー病では進行を遅らせる薬での治療を行うことができますが、病状が進行してしまってからよりも、早い段階であるほど大きな効果が見込めます。また、血管性認知症に関しては、早い段階で虚血性病変の進行を抑制することで、認知症への移行を遅らせる効果が見込めます。さらに、場合によっては外科的手術や内科的治療で治癒でき、認知症への進行を防げることもあります。

本人にとっても、家族にとっても、認知症というのは大きな問題です。ですが、MCIの段階で早期に発見できていれば、その後の生活について心構えや準備を整えることができます。MCIと診断されたからといって、すべての人が認知症になるとは限りません。この段階で気づくこと、そして予防の対策を行うことが大事です。

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