失語症の特徴的な言語症状

失語症

失語症には様々な特徴的な言語症状が見られますが、一人の患者さんにすべての症状が出現するわけではありません。また、脳の損傷部位や重症度により、症状の出方も大きく変わってきます。ここでは、失語症のタイプや重症度にかかわりなく、症状の特徴を説明していきます。

失語症のタイプと損傷部位(ブローカ、ウェルニッケ)
失語症は損傷された部位により出現する症状に特徴があります。 ブローカ失語 ブローカ領野を中心とする左中心前回下部と下前頭回を含む左中大脳動脈領域の広範な梗塞巣が病巣となって出現する失語症状です。 発話の特徴...

発話面の症状

発話面での特徴は、自発話だけでなく、復唱や音読などのことばをつかう発話の全てにみられます。

流暢性の障害

話しことばの流れの面についての障害です。努力性のぎこちない発音で、たどたどしく、プロソディー(抑揚、アクセント、リズムの3つを含めて表現する用語)も崩れている話し方を非流暢といいいます。

喚語困難

ことばが想い出せない症状です。喚語困難は失語症の中核症状で、あいさつも想い出せない患者さんもいれば、日常会話は問題ないですが、仕事上のことばが想い出せない患者さんもいるなど、程度の違いはありますが、すべての失語症患者に見られます。

また、喚語困難の周辺症状として、すぐにことばを想い出せないが、5~10秒待っていると正しい言葉が出てきたり(遅延反応)、誤ったことばを正しいことばに言い直したり(自己修正)、ことばが出てこないので、その周辺のことを説明したり(迂言、迂回表現 例「ふすま」→「開けて入るところ」)などがみられます。

責任病巣は左下前頭回及び左下側頭回の後部、側頭葉では下側頭回後部、側頭極に近い部位でも出現します。

錯語

ことばの一部、あるいは、ことばそのものを誤って言ってしまう症状です。錯語は流暢性の失語症に多く見られます。錯語には3つの種類があります。

音韻性錯語(字性錯語)

構音自体に問題はありませんが、「メガネ」を「メガレ」というように音が他の音に入れ替わってしまうもの。

自らの誤りに気付いて音を修正しようとする『自己修正』『接近行動』が見られる。しかし、修正してもその都度音韻性錯語が出現するため、成功しないことも少なくない。

左縁上回及びその皮質下で出現頻度が高いが、弓状束のどの部位の損傷でも出現する。

語性錯語(意味性錯語)

「メガネ」を「ボウシ」というようにことばそのものを別のことばに誤ったもの。

新造語

ことばを構成する音がほとんど置き換えられ、「新聞」を「しゃくしどう」のように、言おうとしていることばが推測できないほどに変化してしまうもの。

再帰制発話(常同言語)

何かを話そうとすると、同じ音やことばを繰り返してしまう症状をいい、重度の非流暢性の失語症にみられます。

「タン、タン」のように無意味な音を繰り返す場合と、「あんた、あんた」と意味のあることばを繰り返す場合があります。しかし、意味のあることばであっても、その意味とは無関係な場面で発せられているので、意味はあまり重要ではありません。

繰り返しは単調ではなく、その音やことばに抑揚やイントネーション、速度を変化させて、何かを伝えようとします。

保続

自分の言ったことばや訓練中のことばを繰り返してしまう症状をいいます。呼称の訓練中に「絵カード:りんご」を行ったあと、次の絵カードからはどんな絵柄でも「りんご」と回答してしまう、または、「りんご・いぬ」、「りんご・パン」のように頭に「りんご」をつけないと発話できなくなってしまう、などのように出現します。

ジャーゴン(ジャルゴン)

言おうとしている言葉の推測が不可能なほど外れてしまったことば、すなわち、意味のとれない発話の連続している症状をいい、流暢性の失語症にみられます。

ジャーゴンは3つの種類があります。

未分化ジャーゴン

日本語の明確な音とは認められないあいまいな音を繰り返すもの。

新造語ジャーゴン

新造語が頻発して発話の内容が全くわからないもの。

錯語性ジャーゴン(意味性ジャーゴン)

語性錯語が頻発して意味が通じないもの。

反響言語

相手の言ったことばをオウム返しに繰り返す症状をいいます。

反響言語には様々なタイプがあり、ST「あなたのお名前は何ですか?」→患者「あなたのお名前は何ですか?」のようにことばをそのまま返すタイプや、ST「あなたのお名前は何ですか?」→患者「私のお名前は、○○です」のようにことばの一部を変化させて繰り返すタイプなどがあります。

補完現象

相手がことわざなどの内容を予測できる話を始めると、その後に続く内容を自動的に補ってしまう症状をいいます。

例:ST「犬も歩けば」→患者「棒にあたる」

失文法

助詞や助動詞などの機能語が脱落し、名詞、動詞、形容詞などの内容語中心の発話になる症状をいいます。

例:「明日、学校、行きます」

しかし、日本では機能語だけが脱落するのはまれで、動詞も脱落し、名詞のみの『電文体』になることが多く、主にブローカ失語でこの症状はみられます。

例:「明日、学校」

錯文法

動詞も機能語もあり、文としての形式は保っていますが、語の誤った使い方をしている症状をいいます。この症状は、流暢タイプの失語症で見られることが多いです。

例:「明日へ学校は行きます」

アナルトリー

特定の音が歪むのではなく、その時々で歪む音や歪みの程度が異なる症状が出現します。発語の時間軸上にある障害です。

例「み・・・かん」や「みーかーんー」というようにその時々で異なる歪み方の発音をしてしまう

左中心前回下部が責任病巣と考えられます。構音障害とは異なりますが、基本的には構音レベルでの障害を指します。

理解面の症状

理解の障害は入力モダリティから『聴覚的理解』と『読解』などに分類できます。

聴覚的理解の障害は、左側頭葉など後方言語領域の損傷でより重篤に障害される傾向がありますが、程度は違えど全ての失語症に症状にみられます。

語音弁別の障害

聴いたことばを理解できずに、復唱や書き取りができない症状です。ウェルニッケ失語でみられることが多いです。

語の意味理解の障害

ことばははっきり聴こえており、復唱や書き取りはできますが、そのことばと意味が結びつかない症状です。ウェルニッケ失語や超皮質性感覚失語でみられることが多いです。

この障害では、語の親密度(普段から話していた仕事や趣味に関連する語は理解できる)、カテゴリー(動物はわかるが、植物は理解できない)、具体性(「食事」よりも「ご飯」、「パン」のほうが理解できる)によって理解度が変わってきます。

文の理解の障害

文の理解には、単語の理解に加え、語順や構文の理解、発話速度や文脈なども関係してくるため、すべての失語症で障害を受けています。

読みの症状

読み書きは、通常、話し言葉ができてから学習するものなので、失語症では発話面・理解面の症状よりも障害の程度が重くなることが多いです。また、日本語には仮名と漢字の2つの文字が使われています。仮名はただ音を表す(表音文字)のに対し、漢字は音と意味の両方を表します(表意文字)。そのため、仮名と漢字で症状に違いが出てくることが多く、失語症患者のなかには、漢字だけを拾い読みし、新聞を読むような方もいます。

錯読

文字を読み誤る症状です。錯読には4つの種類があります。

視覚性錯読

形態の似た他の字に誤る(例「は」→「ほ」、「目」→「日」)。

音韻性錯読

音を読み誤る(例「とけい」→「とけき」)。

意味性錯読

意味の近いものに読み誤る(例「足袋」→「くつした」)。

類音性錯読

意味を無視して漢字の音だけを読んでしまう(例「竹輪」→「たけりん」)。

書字の症状

書字は失語症で最も障害される部分です。文字を自発的に書く場合は、ことばを想い起し、そのことばに対応する文字を頭の中で組み立てる必要がありますが、その過程の想い起し部分や文字の認知・理解の部分に障害あると、書字に大きく影響してしまいます。

また、書字では、仮名と漢字で症状の程度が大きく変わってきます。ブローカ失語では、漢字の成績が良いため、漢字による意思表示を行ったりしますが、逆に、超皮質性感覚失語や軽度の失語症では、仮名のほうが成績がよいことがみられます。

錯書

文字を書き誤る症状です。錯書には5つの種類があります。

視覚性錯書

仮名や漢字の書き誤りの症状のことをいい、形態の似た他の字に誤る(例「は」→「ほ」、「目」→「日」)。

音韻性錯書

音を書き誤る(例「たまご」→「たなご」)。

意味性錯書

意味の近いものに書き誤る(例「手」→「足」)。

類音性錯書

読みが全く同じ別の文字を書く(例「映画」→「絵意画」)。

鏡像文字

鏡に写したように左右反転した字を書く。

記憶面の症状

言語性短期記憶障害とは、情報を短時間保持する能力の障害です。言葉を聞いた直後は思い出せますが、数分後にはもう忘れてしまっている、秒単位の記憶です。

責任病巣は上側頭回から縁上回皮質下を通り、前頭葉に至る弓状束と考えられ、このうちどの部位が損傷されても言語性短期記憶は低下します。

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