失語症のタイプと損傷部位(ブローカ、ウェルニッケ)

失語症

失語症は損傷された部位により出現する症状に特徴があります。

ブローカ失語

no-broca

ブローカ領野を中心とする左中心前回下部と下前頭回を含む左中大脳動脈領域の広範な梗塞巣が病巣となって出現する失語症状です。

発話の特徴は、たどたどしく、遅く、流暢性に欠けた発話(非流暢性、プロソディーの障害)で、発話量自体も少ない傾向にあります。助詞の脱落した話し方(失文法)がみられることもあります。軽度の場合は、名詞が言えない程度ですが、重度の場合はことば自体が出なくなってしまいます。

聴こえの理解力は比較的保たれています。読み書きに関しては、漢字は良好に保たれていますが、仮名文字は著名な低下が見られます。

  • アナルトリー
  • 音韻性錯語
  • 言語性短期記憶低下
  • 喚語困難
  • 単語の理解障害
  • 統語の理解障害

ブローカ失語は呼称に関してはキュー(初頭語)の効果が高いです。ただ、アナルトリー、音韻性錯語、言語性短期記憶低下が影響して復唱障害が出現すると考えられます。音韻性錯語は、自己の誤りに気付いて修正を試みる『接近行動』が見られますが、その都度音韻性錯語がみられ必ずしも修正が成功するとは限りません。(例「消しゴム」を見て・・・「けしのむ」→「こしごむ」)

言語機能 症状
会話時の発話 非流暢
聴理解 比較的正常
復唱 障害あり
呼称 障害あり
読みの能力(音読) 障害あり
読みの能力(理解) 正常~障害あり
書字能力 障害あり
特徴的症状 発語失行、喚語困難、音韻性錯語、語性錯語、失文法
損傷部位 ブローカ領野を中心とする左中心前回及び後回、島などの前方言語領域

ブローカ野は第1次運動野に近いため、片麻痺又は一側性の不全麻痺を伴うことも少なくありません。

ウェルニッケ失語

no-wernicke

ウェルニッケ領野を含む左側頭葉、角回、縁上回などの後方言語領域が損傷された場合に出現する失語症状です。

滑らかで流暢ですが、中身がなく作ったような発話が特徴で、発話量は正常並みからそれ以上にあります。言葉の誤りがひどく(音韻性錯語・語性錯語が著明)、言おうとしている言葉が何か判別できないほどに変化してしまうことがあり(ジャーゴンに発展)、また、本人にその誤りを修正しようという試みが見られないことが多いです。

聴こえの理解力は著しく障害されてしまいます。書く力はあるが、統語的誤りがあり、長い文や構造的な文の作成は困難です。読む力は聴こえの理解力に比べれば保たれていますが、口頭言語の症状を反映して読み書きも障害されています。他の失語症のタイプに比べて、語音弁別能力が低くなります。

  • 音韻性錯語
  • 言語性短期記憶低下
  • 喚語困難
  • 単語の理解障害
  • 統語の理解障害
言語機能 症状
会話時の発話 流暢、錯語
聴理解 障害あり
復唱 障害あり
呼称 障害あり
読みの能力(音読) 障害あり
読みの能力(理解) 障害あり
書字能力 障害あり
特徴的症状 喚語困難、音韻性錯語、語性錯語、ジャーゴン、新造語
損傷部位 ウェルニッケ領野を含む左側頭葉、角回、縁上回などの後方言語領域

ウェルニッケ野の下を視神経が通過して視覚中枢へと伸びているため、側頭葉深部にまで病巣が達すると、反対側の視野障害になることもあります。

全失語

no-global

ブローカ領野を中心とした前方言語領域とウェルニッケ領野を中心とした後方言語領の広範囲が損傷された場合に出現する失語症状です。

「聞く、話す、読む、書く」のあらゆる言語機能が全廃してしまう状態になります。発話はほとんどなく、あっても無意味な言葉の繰り返しになります。最も症状の重い失語症です。

言語機能 症状
会話時の発話 非流暢あるいは全くなし
聴理解 重度の障害あり
復唱 重度の障害あり
呼称 重度の障害あり
読みの能力(音読) 重度の障害あり
読みの能力(理解) 重度の障害あり
書字能力 重度の障害あり
特徴的症状 最も症状の重い失語症
損傷部位 ブローカ領野を中心とした前方言語領域とウェルニッケ領野を中心とした後方言語領の広範囲

伝導失語

no-conduction

ウェルニッケ中枢とブローカ中枢をつなぐ弓状束、縁上回、皮質下白質などが損傷された場合に出現する失語症状です。

発話は流暢で抑揚や構音は正常ですが、音の誤りが多いことが特徴です。誤り音に対しては、自己修正を繰り返しながら正しい音に近づこうとする様子が見られますが、自己修正を繰り返すために、発話に間が多く、途切れがちになってしまいます。聴こえの理解は極めてよく、障害があってもごく軽度の範囲に収まっています。読む力は、読解は良好ですが、音読は障害されます。書く力は、漢字は良好ですが、かな文字は発話同様に音の誤りがみられます。

言語機能 症状
会話時の発話 流暢、錯語
聴理解 良好~正常
復唱 障害あり
呼称 正常~障害あり
読みの能力(音読) 障害あり
読みの能力(理解) 良好~正常
書字能力 障害あり
特徴的症状 喚語困難、音韻性錯語、接近行為
損傷部位 ウェルニッケ中枢とブローカ中枢をつなぐ弓状束、縁上回、皮質下白質など

超皮質性運動失語

no-tcma

ブローカ領野の前方あるいは上方、補足運動野を含む左前頭葉内側面、左側脳室前角の前外側部白質などが損傷された場合に出現する失語症状です。

発話は話しかけられない限り、自ら話し始めることはほとんどなく、話すときも発音はなめらかですが、口ごもったり、吃音のように繰り返しがみられ、さらに簡単な言葉でしか話せません。しかし、復唱や質問になると、問題なく話し、長文も可能です。聴こえの理解は良好です。読みの力は、理解は良好ですが、音読は発話同様障害されています。また、書く力も発話同様に障害されています。

言語機能 症状
会話時の発話 非流暢
聴理解 比較的正常
復唱 良好~正常
呼称 障害あり
読みの能力(音読) 障害あり
読みの能力(理解) おおむね良好
書字能力 障害あり
特徴的症状 発話の減少、声量低下、保続
損傷部位 ブローカ領野の前方あるいは上方、補足運動野を含む左前頭葉内側面、左側脳室前角の前外側部白質など

超皮質性感覚失語

no-tcsa

ウェルニッケ領野周辺、左側頭-頭頂-後頭葉接合部領域が損傷された場合に出現する失語症状です。

発話は流暢ですが、語性錯語が多く、空虚で情報の伝わりにくい発話となります。聴こえの理解は著しく障害されます。音の識別は可能で、復唱は良好にできますが、理解を伴っておらず、復唱した言葉の意味は判別できません。また、相手の言葉をそのまま言う反響言語(オウム返し)が特徴的に見られます。読む力も同様で、音読できますが、意味は理解できない読解障害が起こります。書く力は仮名文字の書き取りは可能ですが、自発的な書き出しは障害されています。

言語機能 症状
会話時の発話 流暢、錯語、反響言語
聴理解 重度の障害あり
復唱 良好~きわめて良好
呼称 障害あり
読みの能力(音読) 障害あり
読みの能力(理解) 障害あり
書字能力 障害あり
特徴的症状 語性錯語、反響言語
損傷部位 ウェルニッケ領野周辺、左側頭-頭頂-後頭葉接合部領域

超皮質性混合失語(言語野孤立性症候群)

no-mixed

ブローカ領野の前方あるいは上方および左側頭-頭頂-後頭葉接合部領域が損傷を受けた場合に生じる失語症状です。ブローカ領野およびウェルニッケ領野とそれを結ぶ領域、つまり、言語を司る領域が周囲から孤立した状態になるため、別名、言語野孤立性症候群と呼ばれています。

発話は非流暢で、自分からはほとんど話しません。しかし、質問するとそれをそのまま、あるいは一部を繰り返す反響言語(オウム返し)や文章の残りの部分を続ける補完現象がみられます。復唱は良好ですが、意味の理解を伴いません。聴こえの理解、読み書きは重篤に障害されます。

言語機能 症状
会話時の発話 非流暢、反響言語
聴理解 重度の障害あり
復唱 良好
呼称 重度の障害あり
読みの能力(音読) 障害あり
読みの能力(理解) 障害あり
書字能力 障害あり
特徴的症状 反響言語、補完現象
損傷部位 ブローカ領野の前方あるいは上方および左側頭-頭頂-後頭葉接合部領域
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