人工内耳と手術の適応基準

聴覚障害

人工内耳とは、重度の聴覚障害者の聴力を取り戻すための人工臓器です。手術により、内耳の奥にある蝸牛に電極を差込み、電極から聴神経に直接電気刺激をして、その電気情報を「聴こえ」として脳に伝えます。そのため、内耳有毛細胞が傷害された感音性難聴に対して有効な手段です。

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人工内耳のメカニズム

人工内耳には、手術により体内に埋め込む体内装置と外で音を拾う体外装置により構成されます。

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体内装置

体内装置はインプラントと呼ばれ、対外装置で処理された音情報を受け取る受信コイルと神経を刺激する電極から構成されます。

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体外装置

体外装置は音を拾うマイクロフォン、音情報を処理するスピーチプロセッサー、音情報をインプラントに送る送信コイルから構成されます。
以前は、マイクロフォンとスピーチプロセッサーはそれぞれ別の機器を用いた分離型でしたが、現在は技術の進歩と活動性の観点から一体型が普及してきています。

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(上:一体型スピーチプロセッサー / 下:分離型スピーチプロセッサー)

適用基準

小児:2014年改訂

I.人工内耳適応基準
小児の人工内耳では、手術前から術後の療育に至るまで、家族および医療施設内外の専門職種との一貫した協力体制がとれていることを前提条件とする。

1.医療機関における必要事項
A) 乳幼児の聴覚障害について熟知し、その聴力検査、補聴器適合について熟練していること。
B) 地域における療育の状況、特にコミュニケーション指導法などについて把握していること。
C) 言語発達全般および難聴との鑑別に必要な他疾患に関する知識を有していること。
2.療育機関に関する必要事項
聴覚を主体として療育を行う機関との連携が確保されていること。
3.家族からの支援
幼児期からの人工内耳の装用には長期にわたる支援が必要であり、継続的な家族の協力が見込まれること。
4.適応に関する見解
IIに示す医学的条件を満たし、人工内耳実施の判断について当事者(家族および本人)、医師、療育担当者の意見が一致していること。

II.医学的条件
1.手術年齢
A) 適応年齢は原則1歳以上(体重8kg以上)とする。上記適応条件を満たした上で、症例によって適切な手術時期を決定する。
B) 言語習得期以後の失聴例では、補聴器の効果が十分でない高度難聴であることが確認された後には、獲得した言語を保持し失わないために早期に人工内耳を検討することが望ましい。
2.聴力、補聴効果と療育
A) 各種の聴力検査の上、以下のいずれかに該当する場合。
i.裸耳での聴力検査で平均聴力レベルが90dB以上
ii.上記の条件が確認できない場合、6カ月以上の最適な補聴器装用を行った上で、装用下の平均聴力レベルが45dBよりも改善しない場合。
iii.上記の条件が確認できない場合、6カ月以上の最適な補聴器装用を行った上で、装用下の最高語音明瞭度が50%未満の場合。
B) 音声を用いてさまざまな学習を行う小児に対する補聴の基本は両耳聴であり、両耳聴の実現のために人工内耳の両耳装用が有用な場合にはこれを否定しない。
3.例外的適応条件
A) 手術年齢
i.髄膜炎後の蝸牛骨化の進行が想定される場合。
B) 聴力、補聴効果と療育
i.既知の、高度難聴を来しうる難聴遺伝子変異を有しており、かつABR等の聴性誘発反応および聴性行動反応検査にて音に対する反応が認められない場合。
ii.低音部に残聴があるが1kHz~2kHz以上が聴取不能であるように子音の構音獲得に困難が予想される場合。
4.禁忌
中耳炎などの感染症の活動期
5.慎重な適応判断が必要なもの
A) 画像診断で蝸牛に人工内耳が挿入できる部位が確認できない場合。
B) 反復性の急性中耳炎が存在する場合。
C) 制御困難な髄液の噴出が見込まれる場合など、高度な内耳奇形を伴う場合。
D) 重複障害および中枢性聴覚障害では慎重な判断が求められ、人工内耳による聴覚補償が有効であるとする予測がなければならない。

成人:2017年改訂

本適応基準は、成人例の難聴患者を対象とする。下記適応条件を満たした上で、 本人の意思および家族の意向を確認して手術適応を決定する。

1.聴力および補聴器の装用効果 各種聴力検査の上、以下のいずれかに該当する場合。
i.裸耳での聴力検査で平均聴力レベル(500Hz、1000Hz、2000Hz) が 90dB 以上の重度感音難聴。
ii.平均聴力レベルが 70dB 以上、90dB 未満で、なおかつ適切な補聴 器装用を行った上で、装用下の最高語音明瞭度が 50%以下の高度 感音難聴。

2.慎重な適応判断が必要なもの。
A) 画像診断で蝸牛に人工内耳を挿入できる部位が確認できない場合。
B) 中耳の活動性炎症がある場合。
C) 後迷路性病変や中枢性聴覚障害を合併する場合。
D) 認知症や精神障害の合併が疑われる場合。
E)言語習得前あるいは言語習得中の失聴例の場合。
F)その他重篤な合併症などがある場合。

3.その他考慮すべき事項
A)両耳聴の実現のため人工内耳の両耳装用が有用な場合にはこれを否定しない。
B)上記以外の場合でも患者の背景を考慮し、適応を総合的に判断する事がある。
C)高音障害型感音難聴に関しては別途定める残存聴力活用型人工内耳ガイドライン(日本耳鼻咽喉科学会 2014)を参照とすること。

4.人工内耳医療技術等の進歩により、今後も適応基準の変更があり得る。 海外の適応基準も考慮し、3年後に適応基準を見直すことが望ましい。

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