嚥下障害者の食物の形態について

嚥下障害者の食物の形態について

食物の種類と形態

嚥下障害患者にとって、食物は咀嚼や食塊形成の障害を補うことができ、咽頭残留や誤嚥の危険が少ないものでなければなりません。

そのため、食物に求められる条件は、

  • 密度が均一であること
  • 適当な粘度があって、バラバラになりにくいこと
  • 口腔や咽頭を通過するときに変形しやすいこと
  • べたつかず、粘膜に付着しにくいこと

等が挙げられます。

また、摂取ペースや使用するスプーンによっても嚥下の難易度が変わってきます。一口量が多すぎて誤嚥する場合、小さいスプーンや箸を使用することで物理的に一口量を制限します。嚥下造影検査で適量がわかっていれば”3ccくらい”などと具体的な摂取量を示すこともあります。

摂取ペースが速いと、咽頭残留があるのに次々に摂取してしまい、咽頭残留が増加して誤嚥をきたしてしまうことがあります。摂取ペースが速くならないように心がけ、必要があれば交互嚥下や空嚥下を指導し、咽頭残留の解消を図ります。

段階的に食物の形態を変えていく

摂食量を安全に増やしていくためには、ゼリー食からミキサー食、きざみ食へと食物形態を徐々に変更していく「段階的摂食訓練」が有効です。食事アップの基準としては、摂食時間が30分以内で、7割以上摂取が3食(嚥下障害が強く疑われる場合は3日間)続いたときを目安にします。

また市販の嚥下障害食も増えており、品質も向上しています。この様な市販品を上手く利用すると、本人の満足度も得られ、訓練意欲向上にもつながります。

食形態と適応例
流動食

ほとんどとろみのない液体
口腔腫瘍術後。ただし頸部郭清、高齢等により喉頭挙上の遅延・範囲縮小を合併する場合には適しない。
ミキサー食

スプーンですくっても跡がつかない、ポタージュ状
食塊形成・移送障害と喉頭挙上遅延の合併(口腔腫瘍・頸部郭清術後)、食道入口部開大不全と喉頭挙上の合併で、液体では誤嚥、固形物では咽頭残留がある(ワレンベルグ症候群の初期摂食)。
ミキサーとろみ食

スプーンですくうと跡が残る、ペースト状
ミキサー食適応例よりも食塊移送障害・咽頭残留が軽度、もしくは喉頭挙上遅延が重度。
ミキサームース食

皿に入れても形になる ムース状
食塊形成障害・喉頭挙上遅延だが、食塊移送障害・咽頭残留は軽度。ミキサー食・ミキサーとろみ食では咽頭粘膜に食塊が付着し残留する。ワレンベルグ症候群以外の脳血管疾患症例の摂食初期等。
きざみとろみ食

きざみ食+あんかけ
咀嚼による食塊形成がやや可能で、食塊移送障害・咽頭残留が軽度。
一口大食

一口大に切ったもの
ごく軽度の食塊形成・移送障害や咽頭残留があり、一口量の制限が必要。
全形食

通常の大きさ
固形物の咀嚼・嚥下にはほとんど問題がない。

直接訓練に適した食材と禁忌の食材

訓練に適した食材

とろみのある液体 ポタージュスープ、ネクター状飲料、ゼリー飲料
粘度がほぼ均一でまとまりのよい食品 ヨーグルト、温泉卵、インスタント・マッシュポテト
粘着性が低く「つるり」とした食品 ムース・ゼリー・テリーヌ、卵豆腐、絹ごし・おぼろ豆腐、水ようかん
食塊形成が比較的容易な食品 コロッケ、グラタン、煮込みハンバーグ

訓練における禁忌の食材

固形物と液体等、異なる食感が混じっているもの 高野豆腐、バナナ以外の果物、さらさらとした雑炊・粥、かけそば・うどん類、パンと牛乳、具入りスープ、味噌汁、薬と水
噛み切りにくいもの もち、こんにゃく、さつま揚げ、里芋、粘性の強い山芋、昆布、スジ肉、イカ、タコ、貝類
高繊維のもの 葉菜類(青菜類、キャベツ等)、ゴボウ、フキ、パイナップル
拡散しやすいもの クッキー、せんべい、散剤(粉薬)、そぼろ、でんぶ、焼き魚等
張りつくもの 板海苔、薄切りキュウリ等
極度に熱いor辛いもの ラーメンスープ、トムヤムクン等

液体の摂取

液体は落下速度が速く、咽頭で拡散しやすい特性があります。粘度をつけない液体は比重も軽いため、容易に気管に吸収されやすく、誤嚥につながりやすい傾向にあります。多くの嚥下障害者にとって液体は最も嚥下困難な食品です。

しかし、一般的には、「液体の方が飲み込みやすい」という考え方が浸透しており、「水も飲めなくなった」とショックを受ける患者もいます。言語聴覚士は、「液体こそ嚥下が難しい」という説明し、増粘剤でとろみをつけたり、ストローやスプーン、カップの形状に工夫する等の患者さんに適した方法を考える必要があります。

  1. 液体の経口摂取を停止し、点滴や経管栄養などに替える
  2. ゼリー、増粘剤などで粘度をつけて、液体の落下速度を遅くする
  3. 一口量を制限して、拡散・残留を防止する
  4. 食器などの工夫(ストロー・カップの形)により姿勢の変化を避け、横向き・顎引きなどの代償姿勢をとる

※障害の重症度により適した方法を選択していきます。

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