脳波を利用した聴力検査(ABR、ASSR)

聴覚障害

純音聴力検査や語音聴力検査、幼児聴力検査は、「きこえ」を調べるにあたって、検査を受ける本人に「きこえる」「きこえない」を応答してもらう自覚的聴力検査と言います。
しかし、この自覚的聴力検査では、新生児や乳幼児といった自分では「きこえる」「きこえない」の応答ができない対象者には検査が行えません。また、心因性難聴や詐聴など意図的に、あるいは意図的ではなしにかかわらず信頼性が乏しい場合もあります。さらに、自分では意思表示ができないほどの重症な患者の場合にも検査を行うことができません。

このような応答ができない又は信頼性が乏しい方に対して、自身による意思表示は不要で聴力を調べることができる他覚的聴力検査を実施します。

他覚的聴力検査の代表的なものは脳波を利用した聴力検査です。脳波を利用した聴力検査には多くの種類がありますが、ここでは聴性脳幹反応と聴性定常反応の2つの検査法を紹介します。

聴性脳幹反応

聴性脳幹反応(ABR:Auditory Brainstem Response)は、蝸牛神経ならびに脳幹部聴覚路に由来する反応を求めることができる検査法です。

検査音は「カチ、カチ、カチ・・・」というクリック音を音刺激として用います。人が音を聞くとその後約1.5ミリ秒で音が蝸牛神経に到達し、その後約1ミリ秒間隔でいくつかのピークをもつ反応が蝸牛神経から、脳幹、橋、下丘にかけて発生します。この結果が波形により示され、正常ではおおむね5つのピークが現れます。

ピークは、Ⅰ波は蝸牛神経、Ⅱ波は蝸牛神経核、Ⅲ波はオリーブ核、Ⅳ波は外側毛帯、Ⅴ波は下丘に対応します。

このⅠ~Ⅴ波のピークの現われる時間が遅れたり、波形が現れなかったりすることにより、蝸牛から脳幹部のどこに異常があるかを確かめることができます。

abr

検査はベッドに仰向けになった状態で行います。覚醒・睡眠の状態は問いませんが、乳幼児の場合は、体の動きによってうまく検査が取れない場合があるので、薬剤を使用し眠らせてから行います。

自覚的に反応をする必要がないため、客観的に聴力検査を行うことができ、新生児の聴覚スクリーニングや身体障害が重症な患者、脳死の判定などに応用されています。

しかし、ABRは2000Hz~4000Hzの間では信頼を得られるが、低音域では信頼性に欠けます。そのため、病状によっては結果が出にくい場合があります。

聴性定常反応検査

聴性定常反応検査(ASSR:Auditory Steady-State Response)は、定常状態誘発反応を利用し、音刺激に反応した脳からの電位を特殊な方法で記録する、近年注目を浴びている最新の検査法です。

脳波を利用するところがABRと同じですが、ASSRは低音域~高音域までの広い範囲の周波数による検査が可能で、おおよその聴力像を推定することができます。また、両耳同時による測定も可能です。

検査はABR同様ベッド上に仰向けの状態で行います。成人では覚醒、小児では睡眠の方が反応の出現性が良好です。また、体の動きによってうまく反応が出現しないことがあるので、乳幼児の場合は、原則、薬剤による睡眠下で検査を行います。

ASSRはABR同様に自覚的な反応の必要がないため、新生児の聴覚スクリーニング後の精密検査、補聴器のフィッティングに向けた乳幼児の聴力検査、心因性難聴の診断などに応用されています。ですが、新しい検査法のため、実施できる病院はまだ少ないようです。

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